日本企業の間で、退職一時金制度を縮小・廃止する動きが広がっています。
例えば、王子ホールディングスは2026年春以降に入社する社員(※一部を除く)を対象に、退職一時金を廃止すると発表しました。廃止する退職金相当額は毎月の給与へ上乗せされるため、会社側は「生涯年収に大きな違いはない」と説明しています。また、現在働いている社員の制度は維持されるため、直ちに大きな影響が出るわけではありません。
一方、伊藤忠商事グループのタキロンシーアイでは、国内の全従業員約1,200人を対象に退職一時金を廃止。減額分は給与や確定拠出年金(DC)へ振り替えられました。
さらに、制度自体は残しながらも、退職金を「前払い」という形で月給に組み込む企業も増えています。SMBC日興証券では、採用サイトの初任給に「退職金前払給」を含むことを明記しています。
このように、「退職時にまとめて受け取る」退職金制度は、少しずつ姿を変えつつあるのです。
そもそも、なぜ退職金制度は広まったのか
退職一時金制度は、もともと長期雇用を支えるために普及しました。
高度経済成長期の日本では、人手不足が深刻化し、企業にとっては「せっかく採用・育成した人材に長く働いてもらうこと」が重要な経営課題でした。
そこで、多くの企業は「勤続年数が長いほど退職金が大きく増える」仕組みを導入しました。例えば、30年以上勤めた社員の退職金が大幅に増えるような設計にすることで、転職を思いとどまらせる効果が期待されたのです。
こうした退職金制度は、年功序列型の賃金体系や終身雇用とともに、日本型雇用を支える重要な役割を果たしてきました。
退職金制度の見直しが進む3つの理由
では、なぜ長年続いてきた制度が見直されているのでしょうか。
背景には、主に3つの要因があります。
企業の財務負担を軽減したい
2000年代に入ると、退職給付に関する会計基準が見直され、将来支払う退職金の見込み額を「退職給付債務」として財務諸表へ計上することが求められるようになりました。
その結果、企業は将来的な退職金負担を「見えないコスト」として扱えなくなり、負担軽減の必要性が高まりました。
この流れの中で、日立製作所やNEC、富士通などの大手企業は、退職一時金を縮小し、確定拠出年金へ移行する動きを進めました。
転職市場の拡大
近年は、中途採用を積極的に行う企業が増えています。
しかし、「長く勤めるほど有利になる」退職金制度は、終身雇用を前提とした仕組みです。転職を前提とした働き方とは相性が良いとはいえません。
企業側も、優秀な人材を中途採用しやすくするため、長期勤続を前提とした制度を見直すようになっています。
初任給引き上げの原資を確保したい
現在、多くの企業が新卒採用に苦戦しています。
採用競争を勝ち抜くには、初任給の引き上げが欠かせません。しかし、人件費を無制限に増やせる企業は多くありません。
そこで、「将来支払う退職金」を減らし、その分を「今の給与」に振り替える動きが加速しています。
若手には歓迎、中高年には不安も
退職金制度の見直しについては、世代によって受け止め方が異なります。
若手社員の中には、
「数十年後の退職金より、今の手取りが増えるほうがありがたい」
「転職が当たり前の時代なら合理的だ」
と前向きに捉える人も少なくありません。
一方で、中高年層からは、
「長年勤めることを前提に人生設計をしてきた」
「会社との約束が途中で変わるのは納得しにくい」
といった不満の声もあります。
会社側は「総額では不利益にならない」と説明することが多いものの、給与への配分方法によっては、世代間でメリット・デメリットが生じる可能性があります。
そのため、制度変更を進める際には、企業側の丁寧な説明が欠かせません。
退職金制度は今後どうなるのか
人手不足の深刻化や転職市場の活性化を考えると、退職一時金制度の縮小・廃止の流れは今後も続く可能性があります。
実際に、多くの企業が制度見直しを検討しているといわれています。
ただし、退職金は重要な労働条件のひとつです。一方的な変更は従業員とのトラブルにつながる可能性もあるため、労使間での十分な協議や説明が求められるでしょう。
USCPA視点:これからは「会社任せ」ではなく「自分で備える時代」
退職金制度の変化は、単なる人事制度の話ではありません。
これまでの日本では、「長く勤めれば会社が老後資金の一部を用意してくれる」という考え方が一般的でした。
しかし、その前提は少しずつ変わり始めています。
今後は、
- iDeCo
- NISA
- 企業型DC(確定拠出年金)
- 個人での長期積立投資
などを活用しながら、自分自身で老後資金を準備していく姿勢がますます重要になるでしょう。
退職金制度の見直しは、日本の働き方が「終身雇用中心」から「個人主体」へ移行していることを象徴する出来事ともいえます。
退職金制度があるから安心、ないから不安、と単純に考えるのではなく、自分の会社の制度を正しく理解し、将来に向けた資産形成を進めることが大切です。
一度、自社の就業規則や退職金制度を確認し、「もし退職金が減ったとしても困らない状態」を目指しておくことが、これからの時代のリスク管理といえるのではないでしょうか。 :::
「あなたの会社では退職金制度はどうなっていますか? 就業規則や人事制度の説明資料を、一度確認してみることをおすすめします。」




コメント