― 行動ファイナンスの視点から ―
最近の株式市場は、大きく下がったかと思えば急に戻るなど、落ち着かない動きを見せています。背景には、米国の関税政策など先行きが読みにくい要因があります。
こうした状況になると、
「少し戻ったら売ってしまおう」
「買値近くに戻ったら手放そう」
と考える人が増えます。この行動は「やれやれ売り」「戻り売り」と呼ばれます。損失を抱えたまま持ち続ける不安から、いったん安心したところで売ってしまう心理です。
しかし、この行動は必ずしも合理的とは言えません。なぜなら、多くの人は本来、短期の値動きではなく、将来の成長を期待して投資しているはずだからです。
投資の目的を思い出す
そもそも、株式投資の目的は何でしょうか。
多くの場合、1週間後や1か月後のためではなく、10年、20年先の資産形成のために行っているはずです。
過去を振り返ると、金融危機や感染症の流行など、さまざまな出来事がありましたが、世界経済は長期的には拡大してきました。
今起きている出来事が、20年後の経済全体を完全に壊してしまうと断言できるでしょうか。おそらく、そこまで悲観的に考えている人は少ないはずです。
それなのに、短期的な下落を理由にすぐ売ってしまうのは、人間の心理に引きずられている可能性があります。行動ファイナンスでは、これを説明するいくつかの「心のクセ」が知られています。
「損のほうが強く感じる」心理
人は、得をした喜びよりも、損をした苦しみのほうを強く感じます。
例えば、株価が10%上がったときのうれしさより、10%下がったときのショックのほうがずっと大きく感じられます。
この考え方は、ダニエル・カーネマンらが提唱した「プロスペクト理論」でも説明されています。同じ金額でも、損失は利益の2倍以上の心理的ダメージになるとされています。
そのため、人は
「これ以上下がったらどうしよう」
という不安に過剰に反応し、早く売ってしまいたくなるのです。
さらに、ニュースやSNSでは「下がる」「危険だ」といった情報のほうが目立ちやすく、不安を増幅させやすい傾向があります。
目先の結果を重視してしまうクセ
もう一つの心のクセは、「近い将来の結果を優先してしまう」ことです。
本来は長期で成長を期待して投資しているのに、
- 少し戻ったから売ってしまう
- 小さな利益や安心感を優先する
といった行動をとってしまいます。
これは、長期の利益よりも、すぐ得られる安心や成果を重く見る心理が働くためです。「やれやれ売り」は、この典型例だといえます。
見方を変える「リフレーム」
こうした心理の影響を完全になくすのは簡単ではありません。そこで有効なのが、「見方を変える」ことです。
例えば、
「1か月前より下がった」
と考えると不安になりますが、
「10年後にはどうなっているか」
という視点に切り替えると、感じ方は変わります。
短期の値動きだけを見るのではなく、時間の軸を長く取ることで、感情的な判断をしにくくなります。
人はどうしても直近の変化に目を奪われがちですが、過去数年単位で見れば、株価は上昇していることも多いのです。どの期間で見るかによって、同じ状況でも印象は大きく変わります。
感情で売ってしまった場合でも
もし、すでに不安から売ってしまったとしても、それで終わりではありません。
市場に戻り、改めて長期的な視点で投資を考えることが大切です。
重要なのは、
「自分は何のために投資しているのか」
という目的を明確にすることです。老後資金なのか、教育資金なのか、それとも資産を増やすためなのか。目的がはっきりすれば、短期の値動きに振り回されにくくなります。
一人で判断が難しい場合は、第三者の意見を聞くのも有効です。感情から距離を取ることで、より冷静な判断ができるようになります。
まとめ
株価が下がったあと少し戻ると、つい「今のうちに売ろう」と思いがちです。
しかし、その背景には、
- 損を強く感じる心理
- 目先を重視するクセ
といった人間特有の傾向があります。
短期の動きに一喜一憂するのではなく、
「自分は長期で何を目指しているのか」
という視点に立ち戻ることが、落ち着いた判断につながります。
株価の上下よりも、目的と時間軸を意識することが、投資と上手につきあうコツだといえるでしょう。





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